ASSET BUILDING / NISAの枠の管理
NISAの枠は口座を分けると増える?国税庁が簿価で一括管理するしくみ|2026年9月版
本記事は情報提供を目的とした解説で、特定の金融機関や金融商品をすすめるものではありません。投資信託や上場株式は価格変動・為替変動などにより元本を割り込むことがあります。記載の数値と手続きは2026年9月の時点で金融庁が公表しているものです。ご自身の非課税枠の残りや手続きの締切は、必ず利用中の金融機関または金融庁のNISA特設ウェブサイトでご確認ください。
NISA口座を2つの金融機関に開けば、非課税の枠も2倍になる。これは成り立ちません。金融庁のよくある質問には、利用者それぞれの非課税保有限度額を国税庁が一括して管理する、と書かれています。数えている主体は、金融機関ではなく国税庁のほうでした。しかも数え方は時価ではなく買付け残高、つまり簿価です。ここを取り違えると、枠の残りも、売ったあとの再利用の時期も読み違えます。1,800万円という総額が実際にはどう数えられているのかを、順に確かめていきます。
非課税保有限度額はどう管理されている?
2024年から始まった現行のNISAには、2つの枠と1つの総額があります。年間で使える枠が、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円。併用できるので合計360万円です。そして生涯で持てる総額が非課税保有限度額1,800万円で、そのうち成長投資枠として使えるのは1,200万円までとされています。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
| 非課税保有限度額(総枠) | 1,800万円(簿価残高で管理・枠の再利用が可能) | |
| うち成長投資枠の上限 | — | 1,200万円 |
| 非課税保有期間 | 無期限 | |
| 口座開設期間 | 恒久化 | |
| 対象年齢 | 日本国内に住んでいる18歳以上(利用する年の1月1日時点で成人の方) | |
| 併用 | 可能(合計で年360万円) | |
表の2行目に「簿価残高で管理」と入っている点が、この記事の主題です。金融庁はよくある質問のなかで、非課税保有限度額は買付け残高(簿価残高)で管理されると書き、続けて、利用者それぞれの非課税保有限度額については国税庁において一括管理を行うこととされている、と説明しています。
枠の集計をしているのが国税庁だという点は、覚えておく値打ちがあります。金融機関はそれぞれ自社の口座の残高しか持っていません。合算する主体が別にいるからこそ、次の話が成り立ちます。
金融機関を分ければ枠は増える?
増えません。前提として、NISA口座を開設できるのは1人1口座です。つみたて投資枠と成長投資枠も、一つの金融機関で利用することとされています。ネット証券と銀行の両方で同時に使う、という形にはなりません。
そのうえで、年単位での金融機関の変更は認められています。ここで「では今年はA証券、来年はB銀行で、それぞれ1,800万円ずつ」と考えたくなるところですが、非課税保有限度額を一括管理しているのは国税庁のほうでした。口座の置き場所が変わっても、その人の枠は1つです。
管理が「簿価」だと何が変わる?
買ったときの値段で数えるのが簿価です。時価ではありません。この違いは、値上がりした人ほど大きく効いてきます。
たとえば600万円ぶん買い付けた投資信託が、1,000万円まで値上がりしたとします。時価で管理する制度なら、1,000万円ぶん枠を使ったことになり、残りは800万円です。簿価管理では、使ったのは買付け残高の600万円。残りは1,200万円のままです。運用がうまくいっても、枠が痩せることはありません。
| 数え方 | 使ったとみなす額 | 残りの枠 |
|---|---|---|
| 簿価(現行NISA) | 600万円 | 1,200万円 |
| 時価(仮の比較) | 1,000万円 | 800万円 |
逆の場合も同じ理屈です。600万円で買ったものが400万円に値下がりしても、使った枠は600万円のまま。含み損があるからといって枠が戻ってくるわけではありません。値動きと枠は切り離されていると考えるのが正確です。
枠を最短で埋めると何年かかる?
年間で使える上限は360万円ですから、1,800万円÷360万円で5年になります。ただし内訳に条件が付きます。成長投資枠は1,200万円が上限なので、5年間ずっと成長投資枠240万円を使い切ると1,200万円で頭打ち。残りの600万円はつみたて投資枠で埋めることになります。
| 毎年の投資額 | 月あたり | 1,800万円に届くまで |
|---|---|---|
| 360万円(上限いっぱい) | 30万円 | 5年 |
| 240万円 | 20万円 | 7.5年 |
| 120万円 | 10万円 | 15年 |
| 60万円 | 5万円 | 30年 |
| 36万円 | 3万円 | 50年 |
この表の使いどころは、逆算にあります。45歳の方が65歳までの20年で枠を埋めたいなら、1,800万円÷20年で年90万円、月にすると7万5,000円。月3万円なら50年かかる計算になり、現役のうちに枠を使い切ることは前提にできません。枠の大きさより、自分の積立額で何年かかるかのほうが、設計に効く数字です。
当ブログが掲げている自分年金2,000万円という目標額と並べると、1,800万円の枠はそれをほぼ覆う大きさになっています。とはいえ枠を埋めることと、目標額に届くことは別の話。枠は入れ物の大きさで、中身が増えるかどうかは運用の結果しだいです。
売った枠はいつ戻る?
翌年以降です。金融庁は、NISA口座内の商品を売却した場合には当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できることとなります、と案内しています。戻ってくるのは売却額ではなく簿価のほう。600万円で買って1,000万円で売ったなら、翌年に戻るのは600万円ぶんの枠でした。
時期にも注意が要ります。売った年のうちに同じ枠を使い直すことはできません。1月に売って、その年のうちに買い直す、という回転はできない設計です。また戻った枠を使う年でも、年間投資枠360万円という上限は別に効いています。1,200万円ぶん売っても、翌年に1,200万円を一度に入れ直せるわけではないということ。年360万円ずつ、最短でも4年ほどかかる計算になります。
金融機関を変えるときは、いつまでに何をする?
手続きには期間が決まっています。金融庁は、変更しようとする年(年分)の前年10月1日からその年の9月30日の間に提出する必要があると案内しています。年をまたぐ前から窓口が開いている一方、締切はその年の9月末。年末に思い立っても、その年分には間に合いません。
もう1つ、見落としやすい条件があります。変更前の金融機関のNISA口座で既に上場株式等の受入れをしているときは、その年分についての金融機関の変更はできません。つまりその年に1回でも買い付けていたら、その年の変更はできないということ。積立設定を止めないまま手続きを進めると、ここで止まります。
成長投資枠の対象商品にも条件が付いています。金融庁は、整理・監理銘柄と、信託期間20年未満・毎月分配型の投資信託およびデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等を除外すると案内しています。金融機関を変えると取り扱う商品も変わるため、乗り換え先で同じ商品を続けられるかどうかは事前に確認しておきたいところです。
自分年金の設計に、どう効いてくる?
枠の管理のしかたを知ると、順番が決まります。私が整理するときに使っている手順は次のとおりです。
- いまの簿価残高を確認する。評価額ではありません。利用中の金融機関の取引残高報告書などで、買付け残高がいくらかを見ます。
- 残りの枠を1,800万円から引く。値上がりぶんは引かなくてかまいません。
- 年数で割る。何歳までに埋めたいかを決めて、残りの枠をその年数で割ると、年あたりの必要額が出ます。
- 年間投資枠に収まるか確かめる。年360万円、うち成長投資枠は240万円が上限です。
- 金融機関を変える予定があるなら9月30日を控えておく。その年に買い付けを始める前に動きます。
公的年金と自分年金の関係でいえば、NISAは3階部分にあたる置き場所のひとつです。1階の公的年金がいくらになるかを先に確かめてから、上に何をどれだけ積むかを決める。順番はそちらのほうが自然でしょう。
なお、ここに書いた数値と手続きは公表資料をもとにした一般的な整理です。ご自身の枠の残りと締切は、必ず利用中の金融機関か金融庁のNISA特設ウェブサイトでお確かめください。
よくある質問(FAQ)
- Q. NISA口座を2つの金融機関に開けば枠は増えますか?
- 増えません。NISA口座を開設できるのは1人1口座で、つみたて投資枠と成長投資枠は一つの金融機関で利用することとされています。さらに金融庁は、利用者それぞれの非課税保有限度額については国税庁において一括管理を行うこととされている、と案内しています。金融機関をまたいでも枠は合算して管理されます。
- Q. 非課税保有限度額は時価と簿価のどちらで管理されますか?
- 簿価です。金融庁は、非課税保有限度額は買付け残高(簿価残高)で管理されると案内しています。買ったときの値段の合計で数えるため、値上がりして評価額がふくらんでも枠を圧迫することはありません。
- Q. 売却した分の枠はいつ使えるようになりますか?
- 翌年以降です。金融庁は、NISA口座内の商品を売却した場合には当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できることとなります、と案内しています。売った年のうちに同じ枠を使い直すことはできません。
- Q. 金融機関を変更したいときの手続きはいつまでですか?
- 金融庁は、変更しようとする年(年分)の前年10月1日からその年の9月30日の間に提出する必要があると案内しています。ただし変更前の金融機関のNISA口座で既に上場株式等の受入れをしているときは、その年分についての金融機関の変更はできません。
- Q. 1,800万円の枠を最短で埋めると何年かかりますか?
- 年間投資枠はつみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計360万円です。1,800万円を360万円で割ると5年になります。ただし成長投資枠の非課税保有限度額は1,200万円が上限のため、成長投資枠だけで1,800万円を埋めることはできません。
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト「よくある質問」(2026年9月9日確認):https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/question/index.html
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト「NISAを知る」(年間投資枠・非課税保有限度額・対象年齢/2026年9月9日確認):https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
※簿価管理と時価管理の比較、1,800万円を使い切るまでの年数、売却枠の再利用にかかる年数は、公表されている枠の金額に当てはめた当ブログの計算です。運用収益・分配金・税金・手数料は考慮していません。実際の枠の残りは利用中の金融機関でご確認ください。